台湾レポート 教育編1 福智の話
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今回「台湾の実験(オルタナティブ)教育を知る」ため見学に訪れたのは「福智教育園区」というところですが、ここは、台湾各地に拠点を持つ仏教団体「福智(ふくち)」を背景に持つ「財団法人福智文教基金会」が運営する教育機関です。
福智とは「福徳」と「智慧」の向上を目指す非営利組織で、特に、チベット仏教の教えに基づいた精神教育、有機農業、教育、文化事業を幅広く展開していることで知られています。
台湾は敬虔な仏教徒が多く、新興の仏教団体も多くあるのですが、今回ご縁があった「福智」もその一つです。以下、AIさんの力も借りながら「福智教育園区」の概要をまとめてみました。
「福智教育園区」は台中駅から車で1時間30分ほどの雲林県古坑にある総合的な教育エリアで、幼児教育から高校までの全寮制学校を中心に、周辺には広大な自然と農園を抱いています。
教育理念は、「徳育(心の教育)を根幹とした、黄金の生命の創造」。
「偏差値の高い秀才」ではなく、温かい心と深い智慧を持ち、社会に貢献できる「黄金の生命」(内面の徳性が磨かれ、自分も他者も幸せにできる不変の価値を持つ生き方)を育てること核としています。
教育内容は、儒教と仏教精神を基盤とした「全人教育(Holistic education)」で、単なる知識の詰め込みではなく、「心・知・体」の調和、そして「生命の尊厳」を学ぶことを重要視しており、全カリキュラム通じて、学力よりも先に「人間性」を磨くことを優先にします。
幼少期から『論語』『大学』『中庸』などの儒教経典や仏教の論理学を暗唱し、一生の指針となる「心のOS」を構築するとともに、有機農業を通じ、小さな虫や土壌の微生物まで慈しみ万物と共生する心を体得する「生命教育」も重視しています。
さらに、森林探検、動物の世話、地域活動など、多様な体験型コースを通じて、実社会の中で必要な協力やコミュニケーション、問題解決能力を学ぶとともに、食農教育や有機農業の実践を通じて環境保護意識を養うための特徴的なカリキュラムが用意されています。
全寮制、かつ広大な自然環境を通じた生命教育に加え、福智におけるもう一つ特徴的な点は、3C機器(スマートフォン、パソコン、テレビ)の使用を禁止していること。
「人格形成の時期にデジタルから距離を置く」という独自のスタイルをとっていて、デジタル化が進む社会だからこそ、あえて対面での対話や五感を使った学習といった、リアルなコミュニケーションを中心に据えています。
とはいえ完全にデジタルを拒絶するというのはなく、「道具に使われるのではなく、道具を使いこなす主体性」を育てることを目指していて、これは学校見学の際に先生からの説明にあったものですが、「物理学を学んだ上で、学生が自らドローンを制作する」というようなことを行なっているそうです。

卒業生はというと、台湾内外の大学に進学することが多く、その後は一般企業に務める子もいれば、教師になる子も多い。
多くの学生は、単なる高収入や地位ではなく、「社会に貢献できるか」という軸で職業を選択する傾向も強いようです。
「ふーーーん。話だけ聞くと至極立派だけど、宗教団体がやってる教育機関なんて、胡散臭くない?」
そう思う方も多くいらっしゃるでしょう。
わかります。だって私もそう思ってた。
そのことに関して語るのは後に譲るとして、まずは、そもそも台湾にある福智の団体さんとFutoにつながりが生まれたきっかけについて、少しお話しておきたいと思います。
(さっさと福智の学校と学生さんの詳しい話を知りたいのよ、という方は遠慮なく次の「教育編2 学生の話」へどうぞ)
あれは、今から遡ること約一年前のことでした。
ある日、いつものように渤海(我らの共同浴場)の大浴場で、腑抜けた顔して湯に浸かっていた私は、サウナ室から出てきた一人の女性と目があいました。
その女性は、みるみる嬉しそうな表情になり、私に向かって
「アナタ、ボランティアの親分デショ!!」
と、声をかけてくれたのでした。
これが富来に暮らす台湾人・リンさんとの出会いでした。
「親分」に関して突っ込む余地もないまま、後日改めて食事に誘ってくれたリンさん。
ランチをいただきながら、リンさんが富来にきたきっけけや、リンさんのこれまでの人生に降りかかってきたいろいろ、今は福智という仏教団体で勉強していること、これからの人生はボランティアに身を捧げると決めていること、などをお伺いしました。
その時「知り合いから、あなたボランティアやってると聞いた。紹介したい人がいるからぜひきて!」と誘ってくれたのが、毎年5月に富来で開催している「花まつり」(お釈迦さんの誕生日のお祝い)でした。
富来で行われている「花まつり」の行事は、今年で5回目(本当はもっとやってるらしいけど)で、富来の住民の方や台湾から3、40名が訪れて盛大に開催されるものです。
甘茶かけからはじまり、中国の踊りとか、台湾の歌手の方の歌、富来の太鼓の演奏などがあり、最後は、台湾素食と呼ばれる台湾のベジタリアン料理の振る舞いをいただきながら交流。翌日は朝から海岸清掃して解散、という二日にわたる催しで、目的は台湾と日本の交流だったり、福智団体の方を日本に招待する、といったことだったりするようです。
私自身、富来でこの行事が開催されいていることはチラッと知ってたんですが、参加したのは昨年がはじめてでした。
ちなみに本筋と外れるので花まつりの感想を事細かくお伝えするつもりはないんですが、ひとつだけ、言わせてほしいことがあります。それは、
「台湾素食、最高!!」ということです。
台湾に行ったこともあったし、台湾料理も好きです。
でも毎日食べたいかと言われると違うかな、と思っていた私ですが台湾素食は別。
好みの問題もあるとは思いますが、花まつりの翌日すぐに「ああ、台湾素食、また食べたいなあ」と思い、いてもたってもいられなくなって、台湾の皆さんに混じってご飯だけいただきに行ったほど。
花まつりの途中閉じかかっていた目も、台湾素食のおかげで一気に開眼したということを、ここにお伝えしておきたいと思います。
「美味しいは、何にも勝る説得力」
ー 木綿子、心の俳句(無季語)
さて、そんな台湾素食を山ほどいただき、開眼した目も、満腹とともに再び閉じそうになっていた、花まつり2025。
「法師さん紹介スルヨ!」と、リンさんの手に引かれて行った、その先に佇んでいたのは、坊主頭にオレンジ色の袈裟、伸びた背筋と穏やかな微笑みを讃える、ザ・アジアのお坊さんという精悍な出たちの「法師さん」でした。
「わ、(ちゃんとした)お坊さんだあ!!」と仏教好きな私はミーハーに舞い上がりかけましたが、ここは「ボランティアの親分然」とした粛々たる振る舞いが求められる状況です。
昂る気持ちを謎の呼吸法でなんとか抑え込むことに成功した私は、法師さんに負けず劣らず穏やかな笑みを浮かべ、マインドフルネス的な雰囲気を醸し出しながら「さあ、詳しくご紹介ください、リンさん」と振り向いた・・・・が、リンさんはその時すでに後ろ姿で「私日本語わからないから、あとは好きにシャベッテネ〜!」とどこかに去っていったのでした。
「え?」
と言ったのはもちろん私で、「日本人における代表的な驚きのポーズ」と教科書で紹介されそうなくらいわかりやすく両手をあげて驚いた。
だって、ただ引き合わせられただけで名前さえいまいちわからない法師さんの前に、私は一体、何を語ればいいの、リンさん。法師さんだって日本語話せないし(通訳さんいるけど)。というか、そもそもどういう趣旨の紹介なんだっけ?
と考えた瞬間、いやな思考がわいてきた。
あ、これってもしかして、宗教の勧誘?
法師さんの見た目にひっぱられて忘れてたけど、これ、あれだ。
「地震の苦しみには仏のご加護を」とか「ともに祈りましょう」とか言われて、あやしい会合に呼ばれて、数珠とか売りつけられるやつだ。
そう思いながら改めて法師さんを盗み見ると、これまた、なんとも穏やかな佇まいでいらっしゃる。
あやしい・・・あの穏やかさが、あやしい。
疑いスイッチ100パーセントオンの私の目には、すべてが嘘くさい。
保護されたばかりの野犬のごときの警戒心で法師さんを見つめていて(おそらく睨んでいて)、さすがにそんな私の眼力にひるんだのか、法師さんは通訳さんの方にそっと目をやって、何かを語り始めたのでした。
台湾の言葉だから何言ってるかちっともわからないけど、私は知っている。
これは勧誘に向けた最終打ち合わせ。
予想以上のこちらの警戒心を察知して、作戦変更してるに違いない。
でも大丈夫。
私は騙されない。決して私は騙されない。
法師さんはいい声だけど、いい声でもダメです。
私は、絶対、騙されない。
騙されない、騙されない・・・
通訳さん
「ゆうこさん」
私
「は(ちょっと我にかえる)」
通訳さん
「法師さまが、こう言っています」
私
「はぁ・・・(猜疑心と冷ややかさ)」
通訳さん
「今、何が必要ですか?と」
私
「・・・は?(思考停止)」
通訳さん
「何が必要ですか?能登のために、私たちには一体何ができますか?と、法師さまは言っています」
私
「・・・はっ!(気づき)」
私という人間の愚かさよ。
恥ずかしさから殻に篭りたいのをなんとか堪え、通訳さんのお話を聞くところによると、法師さんとしては、被災地・能登では一体何が困っているか、自分たちには何ができるのか、全体像が把握できておらず、支援でききれてないことをもどかしいと思っていたそうです。
だからこそ、現場を知っている私から、より具体的な情報を聞かせてほしい、とおっしゃってくださったのでした。
疑ってごめんなさい・・・と心の中で唱えながら、私は、当時の能登の現状や私たちの活動内容、思いなどをお話ししました。
その後、金銭的支援とかそういう話もあったんですが、継続的に能登と台湾が関われるような支援の形がありがたいと伝え、その会話の中で、超過疎高齢地域かつ被災地である能登半島における今後の教育のあり方を模索している、というこちらの話を受けた法師さんが「福智も学校を運用している」と教えてくださり、それがめぐりめぐって今回の訪問の一つのきっかけとなりました。
そして昨年末ころ法師さんから「3月にとうもろこし祭りがあるので来ませんか」というお誘いを受け、ちょうど手仕事の視察的で台湾を候補にあげていた私たちは、とうもろこし祭りとは一体なにか、ということを問い忘れたまま、日本人の大半が今後も足を踏み入れることのないであろう雲林県の片隅にある(広大だけど)、福智学園の教育区を訪れることとなったのでした。

